AIエージェントの評価手法『評価駆動開発』とは?

執筆者: Jay Revels 評価駆動開発とは? AIエージェントを活用したアプリケーションを、さらに高いレベルへと引き上げる準備はできていますか?本記事では、開発ライフサイクル全体を通じてエージェントのパフォーマンスを向上させるための重要な手法である「評価駆動開発」について紹介します。 このフレームワークを取り入れることで、ユーザーにとって価値のあるAIエージェントを本番環境へスムーズに展開できるようになります。 以下のような課題を抱えていませんか? 「プロンプトの調整が必要か?」「ワークフローのロジックを見直すべきか?」「いっそ言語モデル自体を変更すべきか?」 評価駆動開発を採用すれば、これらの課題に体系的にアプローチでき、場当たり的な試行錯誤を繰り返す必要がなくなります。代わりに、実験・分析・改善のプロセスを明確にし、効率的にエージェントを最適化できるようになります。 例えば、高性能なリサーチエージェントを開発しているとしましょう。このエージェントは、単にWeb上の情報を検索するだけでなく、信頼性の高い情報源を見極め、調査結果を要約し、さらには弱点を補いながら出力を最適化する必要があります。 そのためには、プロセスのあらゆるステップを厳密に評価することが不可欠です。情報源の選定精度のテストから、要約のような自由形式のタスクに対して大規模言語モデルを審査役として活用することまで、あらゆる要素を評価対象とし、常に高品質を維持することが求められます。 しかしそれだけでは不十分です。その理由は、エージェントの意思決定プロセス自体も評価の対象となり、無駄な処理や非効率なステップ、無限ループなどを回避するためです。エージェントのワークフローの履歴を分析し、評価ツールを活用してパフォーマンスを測定することで、エージェントの出力とプロセスの両面を改善するための具体的なインサイトを得ることが可能です。 さらに、ワークフローに「オブザーバビリティ(可観測性)」を組み込む方法についても解説致します。これにより、エージェントの動作をリアルタイムで可視化し、個々のコンポーネントレベルからシステム全体に至るまで、包括的にパフォーマンスを評価できるようになります。そして継続的に改善し続けることが可能になるのです。 それでは、詳しく見ていきましょう! 従来のソフトウェア評価とLLMエージェント評価の違い LLMモデルの評価 vs LLMアプリケーションの評価 AIシステムを評価する際の指標として、大きく2つに分けられます。 1つ目は LLMモデルの評価 です。これは、大規模言語モデル(LLM)が特定のタスクをどれだけ正確にこなせるかを測るものです。例えば、数学の問題を解く、哲学的な質問に答える、コードを生成するといった能力が評価対象となります。MMLU(Massive Multitask Language Understanding)のようなベンチマークや人間による評価がよく用いられ、LLMの基礎的な能力や強みを明らかにするために役立ちます。 2つ目は LLMアプリケーションの評価 です。これは、LLMを1つのコンポーネントとして組み込んだアプリケーション全体のパフォーマンスを測定するものです。単なる言語モデルの性能ではなく、実際のシステムとしてどれだけ価値を提供できるかに焦点を当てます。この評価には、手動・自動・または実データを元に生成されたデータセットを用い、統合されたシステムの精度や実用性を検証する手法が取られます。 LLMの評価には、モデル単体の能力を見る視点と、実際のアプリケーションとしての有用性を測る視点の両方が重要になります。 LLMアプリケーションのテスト vs 決定論的アプリケーションのテスト LLMアプリケーション(以下、AIシステム)と従来のソフトウェアでは、テストの方法が根本的に異なります。 従来のソフトウェアは、事前に定義された文字列や数値といった構造化された予測可能な入力を処理します。一方で、AIシステムは、自由形式のテキストや表データ、Markdownなどの曖昧でオープンエンドな入力を扱うことを得意とします。 また、処理の仕組みにも大きな違いがあります。従来のソフトウェアは、数学演算、条件分岐、ループ処理など決定論的な変換を行いますが、AIシステムは、キーワード抽出、文章の書き換え、質問応答、推論など確率的で繊細なタスクを処理します。 出力の性質も異なります。従来のソフトウェアは、事前に定義されたテキストや数値など固定的で再現可能な出力を返しますが、AIシステムは確率的で多様な出力を生成します。出力形式も状況に応じて変化し、通常の文章、JSON、Markdownなど様々です。この違いにより、エンジニアには新たなマインドセットが求められます。 従来のように決定論的な厳密なパイプラインを構築するのではなく、不確実性や変動性を前提としたシステム設計が必要になるのです。 従来のソフトウェアテストは、決定論的な手法に基づいています。例えば、ユニットテストを用いて個々のコンポーネントの動作を検証し、統合テストでシステム全体が正しく機能することを確認します。 しかし、大規模言語モデル(LLM)の評価には、非決定論的な性質に起因する独自の課題があります。同じプロンプトを繰り返しても、毎回微妙に異なる出力が生成されるため、従来のような厳格な合格/不合格基準を適用することが難しくなります。その代わりに、LLMの評価では、関連性・一貫性・全体的なパフォーマンスといった定性的かつオープンエンドな指標が用いられます。 主な評価ポイントには、以下のようなものがあります。 これらの細かな評価基準を考慮することは、信頼性が高く正確で、ユーザーの期待に沿ったAIエージェントを設計するために不可欠です。 エージェントの評価 AIエージェントは、推論・意思決定・行動実行の能力を組み合わせたシステムです。エージェントは、大規模言語モデル(LLM)を活用し、ユーザーに代わってタスクを実行するソフトウェアベースのシステムです。 効果的なAIエージェントを構築するには、以下の3つの主要な要素を理解することが不可欠です。 ・推論(Reasoning):LLMによる情報処理・判断・ルーティング(Routing):適切なツールやAPIの選択・行動(Action):APIの呼び出しやコード実行 例えば、大阪への旅行を予約するエージェントを設計するとします。このエージェントは、まず始めに、どのツールやAPIを使用するかを判断し、ユーザーの意図を理解し、必要なリソースを特定しなければなりません。例えば、フライトやホテルを探すために検索APIを呼び出し、追加の質問を通じてクエリを調整し、最終的に旅行の詳細を含む正確でユーザーフレンドリーな回答を提供します。 しかし、この成功は以下のような重要な要素に依存します。 ・エージェントは適切なツールを選択したか・リクエストは正しいパラメータで構成されているか・ユーザーの希望(場所・日付など)を正確に反映しているか・最終的な出力は事実に基づき、適切にカスタマイズされているか 課題も存在します。例えば、大阪ではなく広島行きのフライトを予約してしまうような誤りは、ユーザーの信頼を失う原因となります。このような問題を防ぐためには、LLMの出力を評価するだけでなく、各ステップで堅牢な意思決定が行われていることを確認することが重要です。 成功するエージェントを構築するには、戦略的で反復的なアプローチ と厳密な評価 が必要です。プロンプトやコードに対するわずかな変更でも、予期せぬ影響を引き起こし、一部のユースケースが改善される一方で、他の部分で退行が発生する可能性があります。この複雑さに対処するためには、以下の点が重要になります。 ・代表的なテストケースの維持:重要なシナリオを反映したテストケースを用意し、一貫した評価を実施する。・システム調整後の再評価(リグレッションテスト):変更の影響を正しく評価し、意図しない退行を防ぐ。・実際の運用データを活用した評価:ユーザーとの実際の対話データを取り入れ、現実的なテストを実施する。 エージェントは従来のソフトウェアとは異なり、本質的に非決定論的であり、問題解決のために複数のルートを取ることが可能です。そのため、あるシナリオで優れたパフォーマンスを発揮しても、別のシナリオでは性能が低下する可能性があります。これを防ぐために、多様なユースケースを網羅した一貫性のあるテストセットを確立することが重要です。 これらのテストには、実際の運用データやユーザーとのやり取りを含めることで、より現実的な評価が可能になります。プロンプトの調整やツールの改良などを通じた反復的なテストと改善が、退行の解決とテスト範囲の拡大には不可欠なのです。 […]